目を開けると、見たことのない風景が飛びこんできた。
町並みは…どうやら京ではないらしい。
行き交う人々を見ると、どの人も着物を身に纏っているし、帯刀している人がいるということは、少なくとも、明治より前の時代に遡っているようだ。



「ここ、どこだろう?」



新選組の屯所に向かえたらよかったのに。
自分が何処にいるか分からないのでは、動くこともできない。
そんな時、後ろから声をかけられた。



「おい、そこの女!何をしている!!」
「……………!?」



驚いて振り返ると、そこには見覚えのある人物が立っていた。
鉄扇を片手に、仁王立ち。
この人って、確か…………
新選組筆頭局長の芹沢鴨!
やはり、立ってるだけで威圧感があるというか、ちょっと怖い。
逃げ出そうかとも思ったけど、この人の前で少しでも無礼な行動をとれば、間違いなくこの場で斬り捨てられるよね。
ここは慎重に行動しなきゃ。


「えっと、この町に来たのが初めてで、道に迷いまして…。」
「ほぅ…その言葉遣い、確かにこの土地のものではないようだな。」


とりあえず、怪しまれてはいないみたい…かな?


「あれぇ〜?芹沢さん、その子誰?」


芹沢さんとは反対方向から、現れた人物。
桜模様の着物を着流した、金髪の男性。
近藤さんだ!

「どうやら、この地に来たばかりで道に迷ったそうだ。」
「へぇ〜。」
近藤さんは、じっと私を見ると不思議そうに尋ねる。
「女の子一人で、大阪まで何しに来たの?」


おっ……大阪!?
ということは、私がいるのは、ひょっとして文久三年!?


「あの…新…じゃなくって、壬生浪士組の方にお会いしたくて…」
私の一言に、芹沢さんと近藤さんの顔色が変わる。
「娘…お前何者だ!?」
「まぁまぁ!落ち着いて下さいよ、芹沢さん。」
刀に手をかけた芹沢さんを、近藤さんが制す。
「もしかして、会津公が仰っていた女剣士って、君のことかな?」
「え…………?」
「ダメだよ〜。供もつけずに一人で来ちゃ。とりあえず無事でなりより!」
近藤さんは、私の肩にポンと手を置くと、目の前の建物の中に案内してくれた。
どうやら私は、大阪で新選組の隊士達が滞在している宿の前に飛んできたらしい。



中に入ると、両局長の帰りを幹部の隊士達が、出迎える。
当然、その隣に立っている私に、皆の視線が集まるわけで…。
「近藤さん、時と場所を弁えてくれねぇか?」
と、ため息混じりに、土方さんがこちらを睨む。
「トシ…何か誤解してないか?」

「じゃあ、芹沢さんの連れか?」
「もう北の新地に行ったのか?流石は芹沢さんだぜ!」
そう言って覗きこむのは、永倉さんと原田さん。

「どうして、みんなそういう発想になるかなぁ?」
「………………」
飽きれて見ているのが、藤堂くんと斎藤さん。
その後ろで沖田くんが笑っている。

「ひょっとして、入隊希望の女剣士の娘さんかな?」
「さすが山南君!よく分かってる!」
「……………!!」

山南さんと近藤さんの言葉のやり取りで、私も周りにいた隊士達も目を丸くする。


にゅ……入隊希望って、どういうコト?






部屋に案内された私は、一通り幹部隊士の自己紹介を受けた。
「…で、俺が局長の近藤勇だ。」
それは言われなくても、知ってます。
「君のことは、会津公から聞いているよ。何でも剣で身を立てたいんだってね?」
「……えっと?」
「照姫様の元で働いていたんだって?」




もしかして、もしかしなくても…私、ちゃんと勘違いされている?




「君の名前を教えてくれるかな?」
「え……!?」

と名乗るべきなんだろうか?
でも、万が一、これより後に本物のちゃんが現れたりしたら、それこそ大変なことになるし…
成り済ますには、無理があるかもしれない。
ここは、正直に自分の名前を名乗っておこう。


「私はです。」
君か。これからよろしく頼むよ。」
「よ…よろしくお願いします。」


あの人を助けに来た筈なのに、何だかとんでもないことになっちゃったような気がするんだけど。
この先、大丈夫なんだろうか?
一抹の不安を抱えながら、各々と握手を交わした。







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